子どもに関する事件[前編](弁護士 山根大輔)

子どもに関する事件
[前編]

新百合ヶ丘総合法律事務所において、山根先生は、一般民事事件、家事事件全般を取り扱われていると思いますが、とりわけ子どもに関する事件に多く携わられている印象があります。山根先生は、どうして子どもに関する事件を多く手掛けてられるのですか。

そうですね、子どもの事件は、大きく分けると少年事件、いじめ事件、虐待事件があると思います。ざっくり答えると、子どもに寄り添いたいからです。

もう少し具体的にお願いします。

僕は、山田洋次監督の映画「学校」シリーズに大きな影響を受けています。僕が子どもに関する事件に関わりたいと思ったのは、山田洋次監督「学校Ⅱ」の次の言葉です。同映画の中で、主演の西田敏行さんは、自分の娘のことについて別れた奥さんにこんな手紙を送っています。「僕たちは由佳にたくさんのことを期待してはいけないと思う。おばあちゃんや学校の教師たちが独りよがりな期待を抱くことが、本人にとってどんなに負担になっているのか思ってやるべきだと思う。僕たちにできることは、あの子に寄り添ってやること、そして健康と自分を愛することを与えてやることだと思う。どうかあの子に過大な期待をかけて苦しめないでやってほしい。あの子にどんな花が咲き、どんな実がなるのかを知っているのは、親や教師ではなく、本人なのだから。」という手紙です。
僕は、両親のおかげで、そして周りの友達にも恵まれ、幸せな子ども時代を送らせてもらったのですが、そんな恵まれた環境で育った一人の大人として、恵まれない環境で育った子どもに寄り添い、ほんの一助になれたらという思いで子どもの事件をやらせてもらっています。

少年事件ではどのような寄り添い活動をされているのですか。

少年事件は、大きく、非行性、要保護性の程度で、その少年の処分が決まります。僕ら付添人弁護士は、少年の話にじっくりと耳を傾け、そして非行をしてしまった環境を調整、改善していくといった活動をしています。少年事件を起こしてしまう少年は、周囲の大人を信用していないケースが多いように思います。ですので、少年事件に携わる中で一番難しいことは、少年に心を開いてもらい、少年に信頼してもらうことだと思っています。ある子ども関係の専門家の方は、「受け手」として、「自分を認めてくれるような、こうホッとできる空間」、「柔らかく子どもを丸ごと包み込むような人間や環境が不可欠」なんだということを仰っていました。
そして、少年が更生していく上で一番重要な社会資源はやはり家庭だと思いますので、少年の話を聞き、家族との調整をしていきます。さらに、仕事をしている少年のケースでは職場が、学校に通っている少年のケースでは学校が少年を取り巻く重要な社会資源ですので、僕ら付添人弁護士は架け橋役を担っています。やんちゃな少年は、学校で担任の先生であったり、部活の顧問の先生だったりに目をかけてもらっているケースも多いので、学校に行って、先生方の話を聞き、ご協力いただくということもよくあります。

相談写真

これまでの付添人活動で、とくに印象に残っている少年はいますか。

沢山ありますが、一つと言われれば、恐喝未遂で家裁送致となった少年のケースです。その少年は、母・兄との関係が不和だったり等の事情で長い間家出をしていて、不良交友の中で恐喝未遂事件に関わってしまいました。ただ、僕が話を聞いた限り非行性は進んでなくて、家族との調整もうまくついたので良かった、保護観察の決定がでるかなと思っていました。ところが、家裁は、いわゆる美人局という非行事実の性質、家出の期間を重視して、少年院送致の決定をしました。それでも、少年は、少年院送致という云わばレッテル貼りをマイナスに捉えることなく、前を向いて、約1年間の施設収容を乗り切ってくれました。僕は、少年院送致になったことで、その少年は僕を恨んでいるんじゃないかなと考えたりもしていましたが、その少年から生まれて初めて信頼できる大人に会えて良かったよ、といった内容の手紙をもらったときには涙がこぼれました。そして、僕が何より嬉しかったのは、その少年(今は大人ですが。)が働いている東京のとあるお店に顔を出したとき、その少年が、今、家裁の調査官になるために大学の編入試験の勉強をしているところなんだ、と話してくれたことです。

いじめ事件ではどのような活動をされるのですか。

いじめられている子どもの話を聞き、学校と交渉していきます。僕は、いじめられた経験もなく、本当の意味でいじめられている子どもがどんなに苦しい思いをしているのか分からないのですが、それでもじっと子どもに寄り添い、子どもがどのようなことを望んでいるのかを聞いて、そしてその望み、思いを実現すべく学校と交渉します。僕は、ある子ども関係の専門家の方の「子どもの話をきくことができても、辛い思いをした子どもの過去は消えるものではない、でも今の関係が良くなることによって、過去を変えていくことはできる。」という言葉を参考にさせていただいています。
具体的には、学校に対して、いじめの事実確認、原因調査等を依頼し、その結果を踏まえて、学校と一緒に子どもがもう二度と傷つくことのないような環境で学ぶことができるよう、策を考えていきます。

相談写真

いじめている子どもの親とは交渉しないのですか。

場合によってはあります。ただ、いじめの多くは学校で起きていますので、現場の先生と再発防止の協議をします。いじめている子どもの親は、どうしても自分の子どもが可愛いと思いますし、いじめの事実自体を受け止めてくれないケースが多いです。ですので、いじめている子どもの親と交渉しても、事態が前に進みにくいものと感じています。いじめている子どもの親に対して損害賠償請求をしていくことはできますが、そんな過去の事実関係についての裁判をしても、今の関係が良くなることは普通ないと思います。

いじめ事件でとくに印象に残っているケースを教えてください。

まだ弁護士になりたてのころのケースですが、毎日のように夜、学校に出向き、担任、学年主任、校長先生と、いじめを受けた子どもが学校に戻れるよう、どのようなことができるのかを協議した事件がとくに印象に残っています。その子どもは、集団でかなり酷い暴行を受け、全治1か月の傷害を負ったのですが、中心となった子ども自身に対しても働きかけて、何とか学校に戻れることができました。その子どもが、今の関係が良くなったことで、過去の心の傷を少しでも癒すことができたとしたら、本当に良かったなあと思っています。

後編へ続く・・・

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